前回の記事→日のあたらない家で佐藤春夫の「都会の憂鬱」のことを書きました。
改めて読み返してみたところ、意外にも(失礼か?)おもしろかったのでちょっと紹介します。
都会の憂鬱
冒頭で主人公の彼が
「どうしてこの家には日があたらないのだろうか」
という考えに支配されている描写が出てきます。
この彼は、まったくもってひどい有様なんです。
うだうだとつまらんことを考えてばかりで、ホントにたいした行動も起こしません。
そして、何もしていないクセに妻をいたわることもせずに、むしろ文句ばかりはすらすらと口から出てきます。
(まるで、誰かさんのようだね、と妻)
晴れた日に、風呂に入って散髪をしただけで、もう一仕事やったような気分です。
文体も、なかなか切れ目のない、句点でダラダラとつながった長い文で、余計にそう感じさせます。
描写は細かいです。
その分、特に展開はありません。展開などありようもない日々です。
ただ、まじめに?悩んでいる様子やら、日々の出来事を細かく書くと、けっこうおもしろいと思えるんですね。
つっこみたくなる部分も多いんですが、妙に共感できるところがあったりします。
※たぶんこれに共感できたらちょっとまずいとは思いますが。
田園の憂鬱
実は、「都会の憂鬱」の前には「田園の憂鬱」という作品も書かれています。
主人公は、おなじ彼です。
妻と2匹の犬も出てきます。
つまり彼は、都会に疲れて田舎へ行き、そしてまた都会にもどっているわけです。
渠を流れる水や、家の中に入ってくる蟲、月明かりに照らされる丘など、細かく描写されていて、「都会の憂鬱」よりは、直接うだうだ考えている内面の描写は少ない気がしますが、逆に彼が病んでいくのは強く感じられます。
そして、隣人やら酔っ払いやらこどもやら出てきますが、田舎の人間関係に悩むというよりは、もうなんというか、ひとりで勝手に憂鬱になっていきます。
天気のせいとかむしろそんなかんじです。
彼の憂鬱
もう、都会とか田園とか、そういう環境のためではなく、彼自身の性格上の問題ですね。
そして、それに共感できてしまう(全面的にではなく、ちょっとだけですよ)僕も、いろいろ問題を抱えていそうな気がしてきました。
興味のでた方は読んでみてください。
ただ、憂鬱な気分の時に読むより、元気な時に読んで、ツッコミどころ探して楽しむくらいがいいかもしれませんが。いやでも、元気な時ってこういう本に興味が持てないですね、きっと。
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